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アジアの街で考えたこと

9月上旬にマレーシアのクアラルンプールで開かれたアジア地域の建築家の集まり(アルカシア大会)に参加してきました。15ヵ国の代表が集まり、世界規模で進められている建築家資格の国際標準化の動きに対する対応とともに、アジアの文化や伝統の独自性をいかに世界に向けて発信するかについて話し合いました。とりわけ地球規模で問題となっている環境問題に、建築や都市の専門家として正面から取り組むことの重要性が強調されました。

会議はほぼ赤道直下にあるこの都市の一流ホテルで4日間行われましたが、一日中冷房が効いており、スーツにネクタイ着用で熱帯にいることをつい忘れそうになりました。我々が到着した空港も、黒川紀章氏の設計によるもので、最新の設備を備えた天井の高いロビーも快適な空調が施されていました。

会議の合間に、マレーシアが国の威信をかけて建てた、世界一高いオフィスビルのペトロナスタワーに行ってみました。米国人のシーザー・ペリ氏の設計で、特産の錫とガラスをふんだんに使った、瀟酒な建物です。足元の巨大なショッピングセンターも、吹抜けの周囲に有名ブランドの店が並び、多くの人々が買い物を楽しんでいました。街はよく整備されており、インターナショナルの高層の業務ビルやホテルが立ち並んでいます。

これは香港や上海をはじめとする中国の諸都市やシンガポールなど、アジアの途上国で共通してみられる風景です。そして高度成長期やバブル期に大きく様相を変えた日本の都市も同様です。気候風土も文化的背景も異なるこれらの諸都市の表情は、表面的には極めて似通っています。かつて人々は各々の地域の気候や風土に適応した生活スタイルを守りながら、住まいや街をつくってきたはずですが、文明の進化と引き換えに環境に適応する能力が衰退し、機械で制御された人工的な環境でしか暮らせなくなってきているように思います。

膨大な人工を抱える途上国の人々が暮らす所は、高温多湿、乾燥あるいは寒冷など、自然条件の厳しい地域が多いため、先進地域と同じように、石油や原子力などのエネルギーと機械技術による人工的環境づくりをめざしていくとすれば、早晩地球規模の深刻なエネルギー危機と環境悪化を迎えることになるでしょう。だからといって、先行して技術開発を進め、環境汚染を世界にふりまいてきた国や地域が、後発の国々の快適に生活したいという欲求を一方的に非難したり規制する権利はないと思います。それは先進国のエゴ以外の何ものでもないからです。

ドイツが選択した、10年後をめどに原子力発電を廃止するという決定は、自らのエネルギー政策やライフスタイルを率先して転換し、ある種の不自由も引受けていく覚悟を示した例として評価したいと思います。自然エネルギーの有効活用や、ライフスタイルの見直しなど、地域の独自性を生かした多様な叡智が今こそ求められています。


建築ジャーナル 2000年 11月号

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「アジアの街で考えたこと」
建築ジャーナル 2000年11月号
「実感に裏付けられた自然観を」
建築ジャーナル 2000年7月号
「再び都市へ」
JIA機関誌 Bulletin 2001年5月15日号
「医師、弁護士、建築士」
建築ジャーナル 2000年3月号
「デラシネ建築家からコミュニティー建築家へ」
東京自治問題研究所 月刊東京
2000年2月号
「建築家は裸の王様か」
建築ジャーナル 1999年11月号
「公共意識の希薄化と新しい絆の回復」
建築ジャーナル 1999年8月号
「建築設計者は誰の味方か」
建築ジャーナル 1999年5月号
「不景気の極みの今こそ」
建築ジャーナル 1999年2月号
「絶対空間」
建築ジャーナル 1998年11月号
「想像力の衰退と環境ホルモン」
建築ジャーナル 1998年8月号
「あらゆる建築物は残すに値する」
建築ジャーナル 1998年4月号